頭のゆがみの基本
2020年6月5日
大切な赤ちゃんと過ごす日々の中で「うちの子の頭が他の子と比べて長い気がする……」と不安になる保護者の方もいるのではないでしょうか。しかし頭が長いほかには特に異変がない場合にはこのまま様子を見ていてよいのか悩む方も多いかもしれません。赤ちゃんの頭が長いかも、と思ったときにはどうすべきか、今回は赤ちゃんの頭の長くなる理由と対処法について解説します。
自分の赤ちゃんをほかの子とじっくり見くらべる機会はそう多くありませんから、どれくらいになると「頭が長い」状態なのか判断するのは難しいですよね。ここでは赤ちゃんの頭が長い場合の特徴について説明します。
赤ちゃんの頭が長い場合、頭を上から見たときにおでこの部分から後頭部までの長さが通常よりも縦に細長くなっている状態です。横から見たときに大きく後頭部がせり出している点も特徴で、通常よりも頭が大きく見えます。
このような頭の状態は医学的には「長頭症」と呼ばれ、頭が異常に細長く伸びていたりおでこや後頭部に盛り上がりや突出が見られたりする場合には治療が必要なケースもあります。
赤ちゃんの頭が長くなってしまう理由にはいくつかあります。
ひとつは、子宮内の環境や分娩時の影響です。赤ちゃんの頭はとてもやわらかく外部からの圧力を受けやすい状況にあります。そのため、子宮が狭いなどちょっとした外部の環境でゆがみが生じやすくなります。
子宮内で頭のゆがみが起きていなくても、吸引分娩で頭を引っ張られたり、難産で長時間産道に頭を挟まれたりといった状態で頭が長くなってしまうこともあるのです。それくらい、赤ちゃんの頭はデリケートだといえるでしょう。
長時間横向きで寝かせることも頭が長くなってしまう原因になりえます。特にNICU(新生児集中治療室)で治療を受けている低出生体重の赤ちゃんは、横向きで管理される事が多いのです。点滴や人工呼吸用の気管内チューブなどの管の関係上、横向き寝にする必要があるためです。
横向き寝ではいつも頭の側面が接地して圧力がかかってしまうため、頭が長くなる可能性が高まります。
まれに、赤ちゃんの頭が長くなる原因に頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)のひとつである矢状縫合癒合症が隠れていることもあります。
頭蓋骨縫合早期癒合症は、通常はいくつかのピースに分かれて徐々にくっついていくはずの赤ちゃんの頭の骨が、なんらかの原因で早くくっついてしまう病気です。矢状縫合癒合症では正中にあるおでこと後頭部をつなぐ矢状縫合(しじょうほうごう)という部分が早くくっつくことから頭が横に成長できず、長くなってしまいます。
頭が長くなってしまうのは矢状縫合癒合症の特徴的な症状のひとつであり、放っておくと赤ちゃんの脳の発達にも影響が及ぶことから、早めに医師の診察を受ける必要があります。
赤ちゃんの頭が長く見えるなど、頭のゆがみの多くは子宮内の環境や分娩時の影響、寝かせ方など外部要因によるものですので、あまり心配する必要はありません。しかし、中には頭蓋骨縫合早期癒合症の症状のひとつとして頭のゆがみが現れていることがあります。そうした病気の可能性も踏まえて、頭のゆがみが気になった段階で一度医師に相談することをおすすめします。
受診先はかかりつけの小児科の医師でかまいません。また、最近では赤ちゃんの頭の形に特化した専門外来もあるため、より専門的な診療を希望する場合には専門外来の受診を検討してもよいでしょう。
赤ちゃんの頭が長い場合、どのようにして頭の形の改善を図っていくのでしょうか。ここでは病院で受けられる治療を中心に紹介します。
赤ちゃんの頭のゆがみが軽度だったり、生後3カ月未満でまだ首のすわっていなかったりするケースでは、寝かせ方などの体位を工夫することで頭のゆがみの改善を試みることがあります。
赤ちゃんが横向き寝にならないようにおもちゃを使ってあやして寝返りをうたせる、抱っこの仕方を1つに偏らせずにいくつかのパターンを持たせる、保護者の見ているところで腹ばいにさせるなどです。無理やり体位を変えようとすると赤ちゃんが嫌がって泣くこともあるため、おもちゃなどを使って楽しくさまざまな体位を取れるように工夫しましょう。
また、積極的に体位を変えることは赤ちゃんと保護者の方とのスキンシップを増やして絆を深める機会にもなります。
もし、うまく体位変換ができない場合には一人で抱え込まずに医師に相談しましょう。
体位変換で頭のゆがみの改善が見込めない場合にはヘルメット治療を行う場合があります。ヘルメット治療とは赤ちゃんの頭の形に合わせたオーダーメイドのヘルメットを赤ちゃんに長時間かぶせることで、赤ちゃんの頭を正常な形へと導いていく治療です。
日本でもいくつかの病院でヘルメット治療を受けることができます。もし体位変換を行っても赤ちゃんの頭のゆがみが気になる場合には、ヘルメット治療を検討してみるのもよいでしょう。
なお、ヘルメット治療が受けられるかどうかは、専門医による診断が必要です。ヘルメット治療を希望する場合には治療用ヘルメットメーカーのホームページから治療を実施している病院を探すか、かかりつけの小児科の医師に病院を紹介してもらいましょう。
赤ちゃんの頭が他の赤ちゃんよりも長いと「病気ではないか?」「将来、見た目で悩まないか?」と心配になりますね。しかし最近では病院で適切な頭のゆがみの治療を受けることで、ゆがみを目立たなくしていくことが可能です。
安心して赤ちゃんと保護者の方が過ごすためにも、赤ちゃんの頭が長いと気になったら一度病院を受診し、医師に相談することをおすすめします。
日本赤十字社医療センター小児外科部長、東京大学小児外科教授を歴任後、東京西徳洲会病院で総長を務める。同院を退任後、現在はメディカルノート社外取締役及びジャパン・メディカル・カンパニー社外取締役。これからの医療には産業界との連携が欠かせないという考えのもと、医療人として・企業人として、双方の視点から医療の進歩に貢献している。
日本赤十字社医療センター小児外科部長、東京大学小児外科教授を歴任後、東京西徳洲会病院で総長を務める。同院を退任後、現在はメディカルノート社外取締役及びジャパン・メディカル・カンパニー社外取締役。これからの医療には産業界との連携が欠かせないという考えのもと、医療人として・企業人として、双方の視点から医療の進歩に貢献している。
この相談室は、医療機器メーカである株式会社ジャパン・メディカル・カンパニーが運営。赤ちゃんの頭の形に関する疑問・質問を受けつけています。
向き癖やヘルメット治療について。お悩みになっていること、もっと知りたいことなど、ぜひお気軽にご相談ください。
相談室スタッフが、専門医院のご紹介等、最適な解決策をお答えします。